「聖なるズー」 濱野ちひろ ★★★★★★☆☆☆☆
2020.01.24「聖なるズー」濱野ちひろを読んだ。
性暴力に傷つけられ続けた著者が、動物性愛者=「ズー」たちを取材し、
彼らを通して愛・性・暴力のかたちを発見していくノンフィクション。
といわれても、動物性愛者と聞いた時点で「アブノーマルだ!」と思うのは当然だし、なんのこっちゃって感じですよね。読んでください。
グロテスクなものを期待すると期待はずれです。
どちらかというと、ハートフルなドキュメンタリーです。なにを言ってるかわからないと思いますが。
この本でのポイントは「動物性愛は許されるものなのか?」ということ。
この本を最後まで読んでも、わたしにはその答えは出なかった。
著者が「ズー」の人たちと交流していく様子を読んでいくと、
彼らは「究極の動物愛護者なのではないか」とさえ思えるし、
「ズー」の人々は、動物の嫌がることはしない。
(動物を性的対象として見ているのに、嫌がることはしないって、よくわからないと思うのですが、読んでもらうとわかります)
彼らが決して異質な人間ではないとわかる。
「ズー」の人々は、どこか他者(人間と動物両方)とのかかわりについて達観しているのだ。
彼らは、いままでにない視点を与えてくれる。
それでも、わたしが友達に「ズー」であることをもしカミングアウトされたら、素直に受容できるかはわからない。
「多様性」として受容すべきか、そうでないかの線引きはまだまだ難しい。
それよりも私が引き込まれたのは、著者自身の性暴力の経験と、
「ズー」たちの言葉や経験を重ねて、著者が希望を、そして愛を見つけていく終盤。
この本の中で一番リアルなのは、著者が性暴力を受けていたときの心の描写だ。
グチャグチャの生傷をえぐりだして書いたような文で、こちらまで凄惨さが伝わってくる。心が痛くなる。
入念すぎるほどのインタビュー、そして自己の性的トラウマを公にすることが、どれくらい大変なことなのかは想像もつかない。
力作という言葉では表せないほどの力強い文章でした。
そして、たくさんの新しい視点を与えてくれる本でした。
動物にも性欲があるなんて思ってもみなかったし、
頭ごなしに異質にみえるものを排除してはいけない、自分の頭で咀嚼することが大切だと思いました。
とてつもないパワー、とてつもない勇気のある文章に心が震えたので★6つです。
またこの著者が本を書いたら読んでみたいです。応援したい。
「自殺会議」 末井昭 ★★★★★☆☆☆☆☆
2020.01.19 末井昭「自殺会議」を読んだ。
著者による、11人の自殺に縁のある人とのインタビューから成った本。
(自殺未遂した人、親・子供が自殺した人、自殺しようとする人を救う人etc)
同じ著者の書いた「自殺」という本を以前読んだが、あまり共感できず。(そのうち感想書ければ書きます)
この著者の母親は愛人とダイナマイト心中という非常に衝撃的な自殺をしていて、この本は「自殺」に続く二冊目の自殺についての著書となる。
この本は自殺をしようとしている人を食い止める抑止力はないと思う。
ああしろこうしろと説教くさく言うこともなく、死にたいという事をおかしいということもない。割とゆるい。(ゆえに、精神状態悪い時に読むと、さらに落ち込むかもしれない。)
載っているのは、死にたかった人/死にたい人が共感できるポイントと、ドン底から少し這い上がるヒントが散りばめられているだけ。
違う人にインタビューしているのに、同じ様な話に帰結していくこともあり、それが面白い。
多くの人のインタビューに共通しているのは、「自殺したい人の多くに必要なのは他者とのコミュニケーションだ」ということ。
また、「赤の他人とのコミュニケーションは、大きな救済となる」という事も共通して述べられている。
なんでも話せる友達がいればよいが、近しい人に死にたい気持ちを吐き出すのは簡単ではない。
本当の意味で、なんでも話せる友達を作るのは、大人になればなるほど難しくなる。
友達にも家族にも負担をかけたくない、と思うようになる。
ボロボロの時は寄り添ってくれることよりも、冷静な視点を与えてくれることの方が大事なのかもしれない。
(私も上京&一人暮らしをはじめたばかりの頃は、
誰とも話さず寝ているだけで1日が終わっていった時期が半年ほどありまして、
人と関わらないことで、どれだけ身も心もガリガリ削られていくのかは、わかっているつもりです…。)
また、「自分の言葉で表現する」ということの大切さも共通している。
坂口恭平さんのインタビューの、
「つらい」という言葉ひとつ取っても、百人百様のつらさがある。
それは人がつくった言葉だから、全部自分の言葉に置き換えなきゃいけない。
という言葉が、深く心に残った。
自分の言葉で深く自分に、そして他人に向き合う事で、糸口が見えてくるのではないか。
毎日を自転車をこぐみたいになんとか生きていけば、いずれ寿命はみんなにくるし。
その他にも岡田有希子が亡くなったときは脳みそ飛び散る死体の写真も含めて報道されていたとか、
東尋坊に自殺抑止のためにドローンが導入されただとか、この本を読んで自殺トリビアみたいなことも知りました。
私が特に印象に残ったのは、死にたい人の電話を受けている坂口恭平さんと、筋ジストロフィーの岩崎航さんのインタビュー。
正直、インタビューをする相手によっては、私にはあまり内容が響かなかったです。
また、この著者はいい意味でも、悪い意味でも素直で、
前作「自殺」ほどではないが自分の恥部を開けっぴろげに書きすぎでは…?と不快感を感じる部分もあり、星5つにしました。
友川カズキ-死にぞこないの唄
この本を読んでる間、この歌がずっと頭の中をリピートしてました。
「運び屋」 クリント・イーストウッド監督 ★★★★★★★☆☆☆
2019.12.22 Netflixでクリント・イーストウッド 「運び屋」を鑑賞した。
以下、感想。ネタバレはしていません。
とにかくクリント・イーストウッド演じるアールがカワイイ!!!
パリピジジイ(コミュ力激高、女好きでスケベ)。仕事一筋、ジョークのセンスもあって粋。
↑女子を適当にほめるジジイ
しかし、今まで家庭を一切顧みなかったため、元嫁および娘には超絶嫌われている。
仕事がうまくいかなくなり、稼げなくなった彼は、麻薬カルテルとアレコレして運び屋で荒稼ぎ!
持ち前のコミュ力を生かしてギャングにも愛されるジジイになります。
ギャングにちょっと怒られても、退役軍人だから余裕。
↑怒られてるのにリップクリーム塗ってる。かわいい
友人を大切にしつつも、なんとか家族との失われた絆を少しずつ取り戻そうする。
ただそんな平和な日々も長くは続かず…と物語は転がっていくわけですが。
とにかくアールのキャラが魅力的で、まさに「憎めない」。
時々笑えるのに泣ける、気楽に見れるよい映画でした。
2時間以下かつNetflixで見られる上に、展開もサクサク進むので平日の夜に見るのにもオススメ。(家で長い映画見るのって結構体力使いますよね…)
90才で監督と主演をこなすクリントイーストウッド、すごすぎる。
余談ですが、この映画のWikipediaを見て、実話がベースの映画であること、また、一切アールと口を利かない娘を演じたのが実際のイーストウッドの娘ということに驚愕しました。
実際にイーストウッドは若い頃、家族を顧みない人間だったようで、この映画をつくって娘を出演させたことは一種の贖罪でもあるのかな、と思いました。
「パラサイト」 ポン・ジュノ監督 ★★★★★★★★★☆
トピック「半地下の家族」について
2020.01.13 ポン・ジュノ監督「パラサイト」を鑑賞した。
とんでもない映画だった。2020年初映画館だったが、「これ以上いい映画を今年観られるのかな?」というくらい面白い映画。
鑑賞後、この映画のことばかり考えてしまう。
構成・セリフなど、かなり細部まで作りこまれた映画だったので、忘れないうちに映画を見て考えたことをまとめました。
絶対にネタバレを見ないで鑑賞したほうが良いタイプの映画ですが、
この映画の背景として、町山さんのラジオの文字起こしを読んでおくとより一層楽しめると思います!!
以下ネタバレ有りで語ります(映画見てない人は絶対見ないでね!)
セリフの引用はうろ覚えです!
まず、この映画は「富裕層の家族」「半地下の家族」、そして中盤から登場する「地下の家族」の3層の家族が登場する。
「地下の家族」が登場することによって、一気に緊張感が増し、転がり落ちるように展開は加速していく。
そして、「地下の家族」は「半地下の家族」へ、「半地下の家族」は「富裕層の家族」へ、
つまり1層上の家族に憎しみをぶつけることになる。
その結果、「地下の家族」は死に、「半地下の家族」は死ぬか、ボロボロになるか、「地下行き」になってしまう。
唯一「地下の家族」を救えたかもしれない娘・ギジョン(最後、パーティの料理を地下に持っていこうとしていた)だけが殺されるという皮肉も含め、凄まじく練られた構成。
まず私は、この映画は「誰も悪くない映画」だと思った。
行動だけ見れば、「半地下の家族」(詐欺・人の仕事を奪う・窃盗・殺人)、「地下の家族」(窃盗・殺人)が悪いことは間違いない。
ただし、これらは色々な事が重なった結果であり、
この2つの家族は、「富裕層家族」の求める仕事はほぼ、問題なくこなせていた。
全員、求められる能力をきちんと持った人材ではあったということだ。
「半地下の家族」が他人のポジションを奪ってまで『寄生』したのは、
父・ギテクの「大卒が500人も押し寄せるような職場に、みんな就職できてよかったな!」という、家族での食事のシーンのセリフにも表れているように、貧しい人にはチャンス自体がめったに与えられない社会だから。
「富裕層家族」のリビングに忍び込んでの宴会シーンでも、
ギテクは「前の運転手、もっといい社長のお家に勤めてるかな」と少し罪の意識をのぞかせているが、
その後のギジョンのセリフ「それどころじゃない。自分のことだけ気にすればいいんだよ」の通り、
彼らの貧しさは、まさに「それどころではない」のである。
「地下の家族」は、4年間にもわたって隠れて住み、食料を盗んでいたものの、
元家政婦・ムングァンの発言「食事は自分のお金で買っていた」が正しければ、窃盗もしていないことになる。
窃盗をしていたとしても、パク社長の「2人前も食べる家政婦だったが、それに値する仕事をしてくれた」というセリフにも表れる通り、
「富裕層家族」は全く気にしていないし、実際に彼女の仕事ぶりをすごく認めていた。
「半地下の家族」に存在がバレた時も、最初はお金を渡して、平和な形でなんとか今まで通りの暮らしを保とうとしていた。
もちろん「富裕層家族」も悪い人たちではない。
「匂い」やソファでの貧困層プレイ、洪水のことを全く気にとめないところ、
当然、犯罪ではないし、単純に彼らには貧困層のことは、見えてさえいない。
ギテクには彼らに悪気がないことが余計に腹立たしく感じられたのだろう。
次に、すべての家族に共通しているのは「家族を愛していて、自分の家族を守りたい」という気持ちが強くあること。
「富裕層家族」は、自分の家族によりよい生活をさせるために色々な人を雇用した。
「半地下の家族」と「地下の家族」は、自分の家族によりよい生活をさせるために全員で『寄生』した。
「富裕層家族」はソファや家族の行事、「半地下の家族」は寄生成功したときのこっそりイチャイチャ、
「地下の家族」は地下室にあったコンドームでわかるように、どの家族も仲が良く、愛のある家庭だ。
何か1つボタンの掛け違いがなければ、どの家族も穏やかな生活を守ることはできたのではないのか。
ストーリーを何度も反芻して、そんな気持ちにさせられた。
最後に、ラストシーンについて。
息子・ギウが書いたモールス信号の手紙は、届ける手段がないのでは?
もしギウがお金持ちになってあの家を買えるようになっても、
久しぶりに「地下」のギテクに会ったら、鼻をつまむような人間になっていないか?
そんな風に、リアル、かつどこか親しみを覚えてしまうような登場人物ばかりで、
「あの人、ラストのあとどんな風に暮らしているのかな」なんて考えたりした。
とにかく、2020年1発目にすばらしい映画を見た!
今年も、ものすごい映画にたくさん出会えますように!
「連続殺人犯」小野一光 ★★★★★★★☆☆☆
とにかく文章が素晴らしい。実話にもかかわらず小説さながらにまとまっており、夢中になってすぐに読み終わってしまった。
どの殺人犯のエピソードも深く取材されており、ずっと引き込まれっぱなしだった。とんでもない労力をかけて書かれた本だということが読んでいてわかる。
すべての話に対して心に残る節があった。
ひとくちに殺人犯といっても様々で、少しのボタンの掛け違いで転落するように人殺しになった人間もいれば、人の心をもたない「消された一家」の松永太のような人間もいる。
「人が殺人を犯すということ=常人には理解できない異常な状況、ということではないのだな」と思うとそれも恐ろしい。
それにしても、北九州一家連続殺人の内容は何度読んでも顔をしかめてしまう。心がひんやり冷たくなるような、得体のしれない恐ろしさを感じずにはいられない。
猟奇殺人犯に興味がある人には是非すすめたい一冊。
決して後味のよい本ではないですが、たびたび読み返したくなりそう。
*Netflixに猟奇殺人犯と会って、彼らの心理を解き明かしていく「マインドハンター」というドラマがあるが、この著者はリアル・マインドハンターだなあと思った。(ルポ作家さんですが)
しかもマインドハンターよりおもしろい。事実は小説より奇なりですねー