「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ ★★★★★★☆☆☆☆
2020.05.23「わたしを離さないで」カズオ・イシグロを読んだ。
こちらの本は映画になったり(視聴済)、日本でも綾瀬はるか主演のドラマになったりしていたので、ご存知の方も多いかと思う。
先に言っておくと明るい話ではない。笑
同じ著者の「日の名残り」同様、繊細な人物描写がすばらしい。想像だけでここまで細かく描ききれるなんて、著者の洞察力や記憶力はいったいどうなっているんだろう。
とにかく文章力に圧倒されてしまう。
ゆえに、(映画で結末を知っているにもかかわらず)読後は登場人物の心情にすっかり引きずられてしまったため、メンタルが落ち込みがちな時はやめておいたほうがいいかもしれない。笑
そうではない人には、たとえ結末を知っていたとしても読む価値のある小説だといえる。
各々に違う余韻を、思いを残してくれる小説だと思う。結末を知らない人は、絶対にネタバレを読まずに読んで欲しい!
ストーリーは、『介護人』である主人公、キャシーの立場から、生まれ育った施設ヘールシャムでの、親友トミー(♂)とルース(♀)との思い出を懐古する形で進んでいく。
他にもマダムや先生、他の生徒などサブキャラクターは登場するが、メインは3人のみだ。覚えやすい。
ヘールシャムでの生活は、基本、スローかつ穏やかに進んでいく。
子ども故に、キャシーが小さなトラブルでもくよくよ悩んだり、
親友ルースが無駄にイジワルだったり、見栄っ張りだったり…。
小さな出来事が、事細かに描かれながらも、起伏はひかえめなまま、話は進む。退屈に感じる部分もあった。
それが、「うわー、小〜中学生くらいのころこういうケンカあった!こういう無駄にヤな子いたわ!」と、ずっと頭の底にしまわれていた記憶が呼び起こされるほどにリアル!笑
その中で、ヘールシャムで育つ人々がいわゆる「普通」とは違うことが少しずつわかっていく。
しかし、キャシーが『介護人』になる終盤、第三部から、話は急展開していく。
登場人物の心の波も、どんどん激しく描かれるようになっていく。
バラバラになる3人、ヘールシャムにまつわるある噂、ルースの思い。
そしてその噂を確かめる時、何が起こるのか。
(ネタバレになりそうなので控えめにしておきますが)
これがこの本の山場になるが、ここからが本当に心を揺さぶられてやまない。
その後の車内でのトミーの行動には涙をこらえられない。
最後の一行まで、胸をしぼられるような気持ちになった。
とにかく、余韻の残る小説。
私がこの本を読んだ余韻の中で考えるのは、
もう戻らない学生時代のこと、もう一生できないであろう経験のこと、
一生会えなくなった友達のこと。
そこにはしっかりとした地平線があって、どう頑張っても行くことはできないこと、
境界ははっきりと引かれていて、狭間はいっさい存在しないこと。
人によってこの「余韻」のかたちは違うと思う。
ぜひ読んで、あなたなりの余韻を感じて欲しい。
映画版も見返してみたい。たしかルースが本よりもっと嫌なヤツで、もっとつらい話になっていたような気が…。
綾瀬はるかバージョンは、日本に舞台や人名が変更されてるのかな?気になります。笑