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「礼讃」木嶋佳苗 ★★★☆☆☆☆☆☆☆

2020.05.31 「礼讃木嶋佳苗を読んだ。

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首都圏連続不審死事件 の犯人の自伝。

事件について詳しく知らない方は上記のWikipediaのページを見てほしい。

事件当時、彼女は「魔性の女」としてセンセーショナルに報道された。

 

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木嶋佳苗

彼女は、逮捕される前だけでなく、

収監された後もなんと3回も結婚しているそう。

直近の結婚相手は週間新潮のデスクである。

よく調べると、相手は取材目的ではなく、

離婚してまで結婚し、彼女のことを一生記事に書かないと約束しているそうな…。

犯罪者の本を買うのは気が進まないものの、

彼女はどんな人なのか?気になり自伝を読むに至った。

(巻末によると、この本の印税は慈善団体に寄付されるとのこと)

 

一言で言うと、感想は「長かった」。

始めに「文章力には自信がない」と書いているものの、

描写も細かく、教養を感じさせる読みやすい文章ではある。

 

それでもなぜ、長く感じるのかというと

いくらなんでもこれはウソだろう、みたいな話が沢山あり、

疑いながら読み進めていかなくてはならないからだ。

この本の大半がウソなのか?本当なのか?わからないことばかり。

 

そして、彼女は無罪を主張しているため、事件に対する描写はない。

長年付き合っていた人が亡くなっても描写は数行。

「なんか死んだ」みたいな文章で、逆に不自然に感じる。

 

あと自分の身体がすごい!ということを自慢したいがためと思われる

官能小説のような性的描写が長くて、そこは斜め読みしました。

 

そんな感じの話なので、矛盾を感じたところも突っ込みつつ、

がっつりネタバレしてあらすじを紹介しようと思う。

ネタバレを読みたくない方は下記のあらすじは飛ばして読んでください。

 

【あらすじ】(ネタバレあり)

 

主人公、香奈は温厚で本好きの父、厳しいピアノ講師の母の間に生まれる。

彼女は長女であり、妹2人、弟1人の4人きょうだい。

8歳で初潮を迎える。

父には優しく育てられるが、母にはこっそり布団たたき棒で叩かれたり、虐待される。

体重が増えてきたことを母に厳しく指摘され、

毎日食べたものやウエスト、体重を記録される。嫌味も言われまくる。

小学5年のとき、ヤマギシ会の合宿で東京の雅也くん(中2、イケメン)と出会う。

子供なのにめちゃくちゃ高度な会話する。ユングフロイトの話しをする。

(ここらへんから早くも話が一気にウソくさくなってくる)

手をつなぐどまりで終了。文通や電話をする仲になる。

高校生になり、母からの虐待を父に告白。

受験もあるので、父方の祖母のもとに住むことになる。

予備校の合宿で札幌に行く。

ホテルの朝食で東京のサラリーマン徹さん(自称32才、イケメン)と出会う。

美味しいものたくさんおごってもらって、夜処女喪失。

その後エッチしまくって付き合うことになる。

(ここらへんから自分の身体がすごいという自慢はじまる。聞いてないのに

ホテルでちゃっかり健ちゃん(東京在住、年上のガテン系会社員)にもナンパされて文通をはじめる。雅也くんとも文通継続。

地元に帰っても徹さんとの遠距離恋愛は続き、月2回くらいで会いに来る。

いろんなところでエッチする。性描写が続く。長い。

文通している男子たち、および徹さんからたくさん美味しいものがお土産で送られてくるが、

なぜか祖母は全然気にしない。

母が事故にあい、片足を切断する。

徹さんと、香奈の近所のピアノの先生がなぜか気づいたら仲良くなっている。

徹さんから、ピアノの先生の通帳をなぜか渡され、

なぜか「先生の旦那さんにこっそりお金をおろしてくれと頼まれたので、代わりに窓口行って来て」と言われる。

言われた通り、窓口で数百万円おろし、徹さんに渡す。

また数百万円おろそうとしたところ、窓口で警察に捕まる。

(これは、本当は本人がピアノの先生の通帳を盗んだのではないか?と思う)

私的にはここがこの本の山場。

父が迎えに来て、人生で初めて温厚な父にマジギレされる。

徹さんとの関係もバレ、徹さんと父が会い、もう会わないという念書を書かされる。

名前も偽名で、年齢も実は42歳ということが判明。連絡も一切とれなくなる。

家庭裁判所行きになり、受験どころではなくなる。父が800万円弁償することになる。

(本当は徹の指示であれば、なんで徹が弁償しなかったのか?)

失恋のショックで大学受験へのやる気がなくなるが、実家からは離れたいので

KFCの社員として東京で就職する。ずっと文通していた健ちゃんと本格的に付き合うことに。

KFCでは受注ミス、調理ミスを繰り返すがなぜかイケてる存在として一目置かれていたらしい。

働きたくないので3か月でやめる。

健ちゃんと同棲するが、雅也くんをアッシーとしてこき使いつつも、家族ぐるみの付き合いをする。

ピアノ講師をはじめて、1人の生徒であるお金持ちのおじさんをパトロンにする。

おじさんとは手もつないでいないので、なぜか奥さんとも家政婦とも仲良しに。

プラチナカードでバンバン物を買ってもらう。

高級デートクラブにスカウトされ、性的サービス込みでパトロンを複数ゲット。

おいしいものを沢山食べる。

以後、本命彼氏であるはずの健ちゃんはあんまり出てこなくなる。

この頃は余りにもたくさん男性の名前が出てくるため、

この人、どの人だったっけ!?と読んでいて混乱する。

大学生の数学が得意なたっくんをゲット。健ちゃんから乗り換える。

一番下の妹と同居を始める。

イクラスなおじさんたちと、大学生としか付き合っていないため、

その中間の男性を勉強するため(???)、池袋の安いデートクラブでも働く。

ネットオークションの詐欺で捕まるが、本当はこれの真犯人は一緒に働いていた女性。だから女って嫌い。(????)

父が事故死。

周りの男性もなぜか連続で死ぬ。雅也くんも死ぬ。

なぜか偽名を名乗り、お金をもらわず、

むしろ払って、関谷さん(イケメン、バス釣り好き)というモラハラ彼氏と付き合う。

関谷さんの父の介護をしてまで10年付き合い続ける。

捕まる。

あとがき

母にこの本のことを教えたら激怒してたけどざまあみろという感じ!

お茶やらお菓子やら普通に食べられるけど、東京の刑務所の待遇は気に入らない!

日本の女性死刑囚は歴史上14人だけど、今まで執行されたのは2人だけだからほぼ無期懲役ってことだよね!ラッキー!

 

【感想】

 

上記の通り、この本は自己弁護と、誇張した自慢話が非常に多い。

 

本を読んで、私が「これは本当かも」と感じる部分は、

・母に虐待されていたということ。

・幅広い知識があり、教養があること。

・育ちは良く、料理がうまいこと。美食家であること。

である。

 

母からの虐待の部分は読んでいてもしんどくなるほど詳細で、

体重を管理されるくだりはかなりキツイ。

自分の見た目をこんな風に親から幼い頃に否定されたら、この後の人生に影響することは必然のように思う。

彼女の強い「ありのままで、たくさん愛されたい」という欲望は、

このときに芽生えた自信のなさからきているんだと思う。

 

教養や育ちについては、文章から付け焼刃ではないであろうことがわかる。

この本に出てくるご飯は本当においしそうだ。聞いたことないような珍しい料理も出てくる。

余談だが彼女は、字も非常に美しい。

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彼女が普通の人とは感覚がズレていることは、はっきりとわかる。

ついでに言えば、もうここまでの文章でバレているかもしれないが、

私は彼女のことが好きではない。笑

見た目のことではなく、彼女を美しい女性だとは思わない。

なぜ好きでないのか、という理由を凝縮したようなくだりがあるので引用する。

女性は、周囲から浮かないよう、場の空気を読み、突出しないよう気遣いながら、同性と横並びでいようとする。(中略)

女性は、小さな違いを見つけては優越感に浸り、劣等感を嫉妬や憎しみに変えてゆく。そんな女性たちの会話には、情報がない。

自分が男性から選ばれ、他の女性より有利な立場になることと、周囲から浮かず、同じ立場でいることは両立しない。

 

結婚は、一人の男性の専属娼婦になることだ。

彼女がいかに狭い世界で生きているか、凝り固まった思考で生きているかを象徴しているような文章だと思う。ミソジニー的でもある。

徹底的に、彼女の中で、女性は「選ばれる」という幸せしかないのだ。

そんなことを私のような、しがないOLに言われても、彼女は屁でもないだろうが…。

 

 

彼女がなぜモテるのか?という理由については、

本人が考察する通り、おじさん受けする趣味や、多分野の知識があることや、

からしてもらうことを、素直に受け取る(別の言葉で言えば、甘え上手、厚かましい)ことが理由だと思う。

「こんなにしてもらって、いいのかな」という気持ちが彼女には一切ない。

もらえるものはもらう。もらえなくなったら切り捨てる、が彼女のスタンスだと思う。

 

 

彼女についての記事を読むと、ある程度だが、この本のウソがわかる。

本当は、必死で池袋のデートクラブで働きながら、

本当は、やっと捕まえたイケメン彼氏の関谷さんにいじめられても必死でしがみついて、

この本に書かれているようなセレブ生活にあこがれていたのかと思うと

なんともいえない悲しい気持ちになる。

 

 

全体を通して、上品な文章でつづられているが、最後は筆の乱れも目立つ。

母への恨み節や、この事件の被害者男性へかなりキツイ言葉を使うなど、ボロが出ている。

特に被害者男性への言葉はひどいものだ。

常に眼鏡が曲がっているのを気にもせず、ホテル帰りに高速道路を歩いた長野の本宮さんと、

私を軽自動車でリッツカールトンへ連れて行き、四十歳をとうに過ぎていながら、彼女とうまくセックス出来なかったと両親に報告した静岡の村木さん 

 

 

不安になるのは、家族のこともあけっぴろげに書いてしまっているため、

プライバシーは大丈夫かということだ。

きょうだいに関しては中絶したことまで書かれている。

 

 

興味深い本ではあるが、とても人にすすめられる本ではないので★3つ。

実際の事件と照らし合わせて、どこまで本当なのか知りたい。